製品戦略企画室 トップメッセージ
私たちは経営理念『Good Company』、そして『見えるの向こうにあるものを』をカタチづくっていく会社として、これまで世界中の患者さまの “みる喜び” QOV(Quality of Vision)の維持・向上に貢献する多くの製品を開発してきました。具体的には、1958年に老人性白内障治療剤を、以降、抗菌点眼剤、非ステロイド性抗炎症点眼剤、春季カタル治療剤(希少疾病用医薬品)、緑内障・高眼圧症治療剤などを製品化しました。また、種々の後発医薬品・バイオ後続品を介して、患者さまの経済的負担の軽減にも貢献してきました。
一方、眼には様々な疾患がありますが、WHOが2019年に発出したレポート(World report on vision)において、世界では22億人以上が視力障害または失明に至っていること、またそのうち10億人以上が必要な治療を受けていないことが報告されています。さらに、世界的な視覚障害または失明の主な原因として、白内障・屈折異常(近視・老視など)・加齢黄斑変性・緑内障・糖尿病網膜症などがあることも報告されています。
私たちは眼の疾患に対する高価値(First in Class、Best in Class、患者さまの利便性の向上など)の製品を創出すべく、今後も全力で研究開発活動を進めてまいります。製品戦略上重要と考える対象疾患として「視覚障害または失明に至る眼の疾患への貢献」・「アンメット・メディカル・ニーズ*の充足」・「製品化の可能性」をベースとし、主に「角膜疾患」・「緑内障」・「網膜疾患」・「アレルギー性結膜炎」を設定しています。また、これまでは医療用医薬品を中心に製品を開発してきましたが、新たなカタチで眼科診療に貢献したい想いで、医療機器の製品も開発することにしました。
今後の様々な製品開発においては、私たち個々が持つ『Bliss Creator **』としての力、そして最大の強みである『全社一丸』の力で、一つでも多くの高価値の製品を世界に創提します。
* アンメット・メディカル・ニーズ:未だ満たされていない医療ニーズ
** Bliss Creator:自分の仕事の目的・意義を千寿製薬と関わるすべての人々の「しあわせ」とのつながりで捉え、強い使命感と高い志のもと、新しい価値を創提することで、世の中の「期待を超える喜び」を提供していく人
【参考:様々な眼の疾患に対する「治療に対する満足度」と「薬剤に対する満足度」(日本)】
当社が2022年に眼科医(260人)を対象に実施したインターネット調査にもとづいて作成しました。各疾患に対する「治療に対する満足度」と「薬剤に対する満足度」を10点満点でご回答をいただき、各々その平均値を用いてプロットしました。
なお、調査した全ての眼疾患にアンメット・メディカル・ニーズが存在しますが、充足の価値などを考慮して製品開発テーマを設定しています。
角膜疾患
代表的な疾患としてドライアイがあります。ドライアイは涙液層が不安定化することが原因となって、眼不快感や視機能異常を生じ、眼表面に障害を伴うことがある疾患です。ドライアイの主な症状は、眼乾燥感や痛み・疲れ・充血・視力の低下などです。Visual display terminals(VDT)作業と呼ばれるパソコンやスマートフォンの使用・コンタクトレンズ装用・加齢などが主なドライアイ発症のリスクファクターとして知られているほか、空調などの環境要因も影響すると考えられています。また、ホルモンバランスの変化や一部の自己免疫疾患、薬剤の副作用などでもドライアイが引き起こされることが知られています #1。世界では9.4億人*(日本では2,000万人以上)が罹患しているという報告があり、今後さらに増加することが予想されています #1, 2, 3, 4。
ドライアイの治療では主に点眼剤が使用され、日本では人工涙液やヒアルロン酸、ムチンなど涙の成分の分泌を促す薬剤が、米国をはじめEUなどでは眼表面の炎症を抑えるための免疫抑制剤などの薬剤が使用されています。これらの現在の治療の課題は、眼乾燥感や痛みといった自覚症状に対する効果が不十分であることや効果発現までに時間を要することであると考えています。
そのため私たちは、自覚症状を早期に緩和できる次世代の治療薬を中心に、世界のドライアイにおけるアンメット・メディカル・ニーズの充足を目指しています。
また角膜疾患の中にはドライアイのほか、フックス角膜内皮ジストロフィのような難病もあります。フックス角膜内皮ジストロフィは日本では稀なため希少疾患として知られていますが、世界的には最も一般的な遺伝性角膜疾患として知られるほど患者数の多い疾患です #5, 6。現在は治療薬が存在せず、病態が進行した重症の患者さまに対して角膜移植が行われています。私たちはこれらのような治療方法が限定的な疾患に対しても、患者さまの希望につながる革新的な治療薬の研究開発に挑戦し続けています。
- #1:井上 佐智子, 川島 素子, 坪田 一男:ドライアイとは?原因から最新の治療まで、ファルマシア, 2014 50(3): 201-6
- #2: Papas EB. The global prevalence of dry eye disease: A Bayesian view. Ophthalmic Physiol Opt. 2021;41(6):1254-66.
- #3: United Nations population Fund, state of world population. 2024.
- #4:横井則彦,加藤弘明:ドライアイ診療のパラダイムシフト 眼表面の層別診断・層別治療.京府医大誌, 2013 122(8) : 549-57
- #5: Nakagawa T, Tokuda Y, Nakano M, Komori Y, Hanada N, Tourtas T, et al. RNA-Seq-based transcriptome analysis of corneal endothelial cells derived from patients with Fuchs endothelial corneal dystrophy. Sci Rep. 2023;13(1):8647.
- #6: Krachmer JH, Purcell JJ Jr, Young CW, Bucher KD. Corneal endothelial dystrophy. A study of 64 families. Arch Ophthalmol. 1978; 96(11):2036-9.
- *:世界の患者数は2, 3の文献より推計
緑内障
緑内障は、眼圧・加齢・家族歴・生活環境・薬の影響など様々な要因により神経の線維が障害されて徐々に視野が欠損し、失明に至りうる疾患です。世界では7,600万人が罹患しており(日本では 465万人)、今後さらに増加することが予想されています #7, 8。
これまでのエビデンスにもとづいた唯一確実な治療法は眼圧下降です。その治療法の選択肢としては、薬物治療(点眼剤)・手術治療・レーザー治療があり、緑内障の分類や進行速度などによって選択されます。近年、薬物治療において作用機序の異なる様々な眼圧下降薬が開発され、治療薬の選択肢は増えています。薬物治療は原則として単剤療法から開始され、眼圧下降効果が不十分と判断された場合には、薬剤の変更・追加などが行われます。薬物治療の課題は、生涯にわたり点眼が必要となることから、長期間使用での副作用発現や複数剤併用時のアドヒアランス(治療遵守)低下などと考えています。
これまで私たちは、既存薬より優れた効果や安全性を有する治療薬の開発を行いつつ、さらに患者さまの薬剤管理の負担・点眼回数低減、アドヒアランス向上や副作用軽減を目指して、複数の有効成分を組み合わせた配合剤の開発や点眼容器の改良を進めてきました。今後もこのような研究開発を行いながら、眼圧下降だけでは治療効果が不十分で視野障害が進行する患者さまに対し、既存薬とは異なる新たなアプローチで次世代の治療薬の研究開発も行っていきます。
- #7: 緑内障診療ガイドライン(第 5 版)
- #8: World report on vision. Geneva: World Health Organization; 2019.
網膜疾患
代表的な疾患として、加齢黄斑変性(網膜の中心部である黄斑部が障害される疾患)・糖尿病網膜症・糖尿病黄斑浮腫(糖尿病が原因で網膜および黄斑が障害される疾患)があり、いずれも中心がぼやけることや歪んで見えることがあり、結果的に視力の低下を引き起こします。加齢黄斑変性は、加齢が発症の要因の一つとされており、患者数は世界では2億人(日本では70万人)に上ると推定され、今後さらに増えると報告されています #9,10。糖尿病網膜症は、世界では 5 億 3,700 万人が罹患していると推定される糖尿病の3大合併症の一つで、糖尿病患者のうち眼底の異常所見を有する糖尿病網膜症の患者数は9,300万人(日本では300万人)*、さらに糖尿病黄斑浮腫は世界では2,100万人(日本では65万人)が罹患していると報告されています #11, 12, 13。
これらの疾患では、脈絡膜や網膜での新生血管の形成といった血管の異常により、出血や浮腫などが起こります。近年の薬物治療では、血管新生や血管からの血液成分の漏出を亢進させるVEGF(血管内皮増殖因子)タンパクを標的にした抗体医薬品の硝子体内注射が主流になっています。現在の治療の課題は、薬剤料が非常に高額であるため患者さまの経済的負担が大きいこと、眼への注射に対する患者さまの身体的・精神的負担が大きいことと考えています。
これまで私たちは、それらの問題点を解決するため、まずは既存の抗体医薬品と同等/同質の品質、安全性や有効性を有した薬剤(バイオシミラー)の開発を行い、患者さまの経済的負担や医療費の軽減に貢献してきました。今後は、注射が不要または注射回数を減らせるような治療薬の研究開発や世界に先駆けた新たな治療コンセプトを持つ創薬に取り組んでいます。
- #9: Wong WL, Su X, Li X, Cheung CM, Klein R, Cheng CY, et al. Global prevalence of age-related macular degeneration and disease burden projection for 2020 and 2040: a systematic review and meta-analysis. Lancet Glob Health. 2014;2(2):e106-16.
- #10: 安田美穂. 観察研究(コホート研究) 久山町スタディ. あたらしい眼科. 2009;6(1):25-30
- #11: Welcome to IDF | International Diabetes Federation.
- #12: 糖尿病網膜症診療ガイドライン(第 1 版)
- #13: Yau JW, Rogers SL, Kawasaki R, Lamoureux EL, Kowalski JW, Bek T, et al. Meta-Analysis for Eye Disease (META-EYE) Study Group. Global prevalence and major risk factors of diabetic retinopathy. Diabetes Care. 2012;35(3):556-64.
- *:日本の患者数は#11~13の文献より推計
アレルギー性結膜炎
アレルギー性結膜炎は、花粉・ダニ・ペットの毛などのアレルゲンに反応してヒスタミンが放出されることにより結膜に炎症を起こす疾患です。アレルギー性結膜炎の主な症状は、眼の痒み・結膜充血・結膜浮腫・流涙などがあります。重症化すると角膜上皮細胞が障害され、視力に影響を及ぼすこともあります。
世界では5億人~24億人(日本では約1,800万人~2,500万人)が罹患しているとされており#3, 14, 15, 16 *、今後さらに増加すると報告されています#17。
アレルギー性結膜炎の治療には、世界的にヒスタミン受容体をブロックしヒスタミンの生理活性を抑制する抗ヒスタミン薬の点眼剤が汎用されています。現在の治療の課題は、点眼回数が多いことや、効果が不十分な症例が一定の割合で存在することと考えています。
これまで私たちは、抗ヒスタミン点眼剤の米国製薬企業への導出などを通して、アレルギー性結膜炎に悩まされている患者さまの治療に貢献してきました。今後はより少ない点眼回数で優れた有効性や安全性が得られる治療薬や、新たな作用機序を有し、有効性がより優れた画期的な治療薬の研究開発を進めていきます。
- #14: 「人口推計」(総務省統計局)
- #15: アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第3版)
- #16: Alqurashi KA, Bamahfouz AY, Almasoudi BM. Prevalence and causative agents of allergic conjunctivitis and its determinants in adult citizens of Western Saudi Arabia: A survey. Oman J Ophthalmol. 2020;13(1):29-33.
- #17: Miyazaki D, Fukagawa K, Okamoto S, Fukushima A, Uchio E, Ebihara N, et al. Epidemiological aspects of allergic conjunctivitis. Allergol Int. 2020;69(4):487-95.
- *:患者数は#3, #14~16の文献より推計