犬の「目のしょぼつき」や「目をこする」という症状はドライアイかも!?

ドライアイは様々な原因により涙の構造が壊れ、涙の質や量が変わることで目の表面に障害を伴う病気です。
この状態を放っておくと、人では目が痛いとかゴロゴロする、目が疲れやすい、目が痒いなどの不快な症状がでて、それを訴えることができますが、犬はその「自覚症状」を言葉で伝えることができず、周りにいる我々がその症状を拾いとってあげなければドライアイの発見につながりません。では愛犬からどうやって、ドライアイを見つけてあげられるでしょうか?
それは飼い主が愛犬のドライアイの症状をまず知ることから始まります。

【犬のドライアイの主な他覚症状】

  • 目をこすっている/目やにがでている(特に朝起きた時)
  • 目が充血している
  • 目が乾いた感じがする
  • 光をまぶしそうにしている
  • 目をしょぼつかせる
  • 目がとろんとしている(目が重たそう)
  • 涙が多い(後述) など

涙の構造と働き

  • 涙と言っても、それは水分だけではなく、①水分の蒸発を防ぐ役目の「油層」と、②水分とその水分を目の表面に引っつける糊(のり)から成る「液層」という二層構造で主に涙は成り立っています。
    この液層にはムチンとよばれる成分が含まれており、目が開いた時に水分を蒸発しにくくしたり、涙の水分を安定に保つ働きを持ち、さらに潤滑油として、まばたきに伴うまぶたと目の表面との摩擦を軽くさせる働きを持っています。この概念は犬でも同様に考えられています。

人と犬のドライアイの診断と治療方法

  • 人では2016年にドライアイの定義と診断基準が改訂され、これまで検査方法のゴールドスタンダードとされていた「涙の水分量を計測するシルマー涙試験」(写真1)と「角結膜の上皮障害を調べる生体染色試験」がその診断基準からはずれ、ドライアイの自覚症状と涙の目の表面への安定性を評価する涙液層破壊時間(break-up time: BUT)だけで診断が行われることとなりました。(写真 2、3)
    こうした新しい視点に基づき、犬のドライアイ外来でもシルマー涙試験でのみ診断していた涙液減少型ドライアイ(写真4)の治療の考え方に変化がもたらされ、現在では涙の水分補充に加えて、涙の膜を目の表面に安定化させる概念や、目の表面にムチンの分泌を促進して涙の安定性を増加させる点眼治療も取り入れられています。

  • 獣医師が行っている実際のシルマー涙試験(写真1)
  • 獣医師が行っている実際の涙液層破壊時間
    (BUT)検査(写真2)
  • BUT正常所見(写真3)
  • 涙液減少型ドライアイ(写真4)

犬の涙の流れ

  • 涙は上まぶたの耳側にある「主涙腺」というところと、鼻側の目頭にある、動物特有の器官―「瞬膜(しゅんまく;別名は第三のまぶた)」と呼ばれる目の器官で作られています。
    涙の多くは目の内側にある「涙点」という小さな穴を通って、目と鼻をつなぐ「涙小管」から排水管である「鼻涙管」という部分を通って鼻へ流れます。

犬の「涙やけ」や「まぶたの病気」もドライアイと関係している?

  • こうした一連の涙の送り込みを行うのが「まばたき」であり、そのまばたきを行う「まぶた」の異常により蒸発型や摩擦型とよばれるドライアイの原因となると考えられています。
    例えば、目の周りの毛が濡れたり、茶色に変色する「涙やけ」もドライアイの症状である、ということをご存知でしょうか?
    涙が溢れているのにドライアイ?と思われる方も多いかと思いますが、トイプードルやマルチーズ、シーズーなどでよく見かける「涙やけ」も近年、ドライアイの症状と考えられています。(写真5)

  • 流涙症(写真5)
  • 今まで「涙やけ」は鼻涙管という管が詰まることが原因と考えられ、今現在も「涙やけ=鼻涙管のつまり」という考え方も少なくありません。また、犬では目の表面の角膜に白い沈着物がつく目の病気があります。(写真6、7)

  • (写真6)
  • (写真7)
  • こうした「涙やけ」や目の濁りは、まぶたの病気(※)からの目の表面組織(角膜など)への摩擦や、涙の蒸発による涙膜の不安定と角膜表面の傷害が原因であることもあり、ドライアイに対する点眼治療でその涙やけや角膜の濁りが改善することもあるのです。(写真8、9)

  • (写真8)写真6のドライアイ治療3か月後
  • (写真9)写真7のドライアイ治療3か月後

※まぶたの病気

犬では、まぶたにある皮脂腺=マイボーム腺の病気が、特にシーズーなどの短頭種や人気犬種のトイプードル、また高齢の犬などで認められています。
マイボーム腺が分泌する脂は、涙液の油層を形成し、涙の過剰な蒸発の抑制、涙の安定性の促進などに必要な働きをしています。
このマイボーム腺の機能に異常をきたした状態がマイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction:MGD)と呼ばれており、その治療をすることで、上記の「涙やけ」や角膜の濁り、治りが悪かったり再発を繰り返す角膜の傷の病気が改善されることも少なくありません。

「トイプードルだから、マルチーズだから、シーズー だから涙やけはあって当然」また、「この目の表面の濁りや傷は治らない/治りにくい」ではなく、その症状は実は原因をきちんと把握してもらうことで改善することもありますので、ぜひお悩みの場合はホームドクターの獣医師や獣医眼科専門医の先生に相談してみてください。