眼球の角膜が傷ついたかも!? 目が傷つく原因や対処法を解説
眼科医 福岡詩麻 先生

監修
眼科医 福岡詩麻 先生

埼玉県にある、大宮はまだ眼科西口分院 院長。日本眼科学会認定 眼科専門医、医学博士。眼科一般診療や小児眼科、レーザー・注射治療、コンタクト・眼鏡処方など幅広く対応。本院と連携し日帰り白内障手術も実施。自分自身が受診したい、家族に受診を勧めたいと思えるような手厚い診療を目指している。またドライアイやマイボーム腺機能不全を専門とするLIME研究会の副代表として、涙のあぶらや霰粒腫の臨床研究を行っている。

小さなゴミなどが目に入り、知らないうちに目に傷がついてしまっていた……こんな経験をされた方は多いのではないでしょうか。その際、目の傷が自然に治る場合もありますが、放置していると重症化してしまうこともあるので要注意です。

この記事では、もしものときに正しく対応ができるように、角膜(黒目)の傷の原因や対処法をまとめました。

角膜とは

眼球断面図
角膜は、眼球の一番前にある透明な膜です。一般的に黒目(くろめ)と呼ばれる部分ですが、実際には角膜自体は透明な組織です。黒く見えるのは、奥にある虹彩(こうさい)という色のついた部分が透けて見えているからです。直径11mm、厚さ0.5mmほどのドーム状の円形の膜で、外側から上皮、実質、内皮の3つの層に分けられます。
角膜横断面図
角膜の病気や傷は痛みを伴うことが多いです。これは、角膜には血管はありませんが、たくさんの神経の線維が入り込んでいるためです。大切な目を守れるよう、角膜のほんの小さな傷でも強い痛みとして感じることができます。この痛みは、「目に異常があるから、すぐに対処が必要だ」という体からの大切な警告信号なのです。

角膜の仕組みと役割

角膜には、目に入ってくる外界からの光を集めて物を見るための「窓」の役割があります。加えて、外界と接する部分でもあるため、ゴミやホコリ、微生物などから目を保護するためのバリアとしての役割も果たしています。

また目から入ってきた光は、角膜と水晶体を通るときに曲げられて(屈折して)、網膜(目の奥の神経の薄い膜)上に焦点が結ばれます。近いものを見たり、遠くを見たりする際には、水晶体の厚みが変わることで屈折の具合を調節しています。

どのような距離のものを見る場合でも、網膜面にきちんと焦点が結ばれると、物をはっきりと見ることができるようになります
眼軸長のイメージ図
目から入った光を広く取り入れて網膜に焦点を合わせるために、水晶体だけでなく角膜も光を屈折させる虫眼鏡のような凸レンズの働きをしています。

しかし、角膜が病気やケガなどによって濁ったり、本来なめらかな表面が傷ついたり凸凹になったりすると、うまく光を取り込めなくなり、視力が低下してしまいます。そのため、角膜の健康を保つことはとても重要なのです。

角膜が傷つく原因

目にゴミが入った女性
角膜の傷は、軽いものなら私たちの体が修復してくれて自然に治る場合がほとんどです。しかし、原因や状態によってはすぐに眼科を受診することをお勧めします。

1.異物が目に入った場合

普段の生活で目に入る小さなホコリやゴミなどの多くは、涙の働きで自然に流れ出てきます。私たちの体には、このような優れた防御システムが備わっています。しかし、以下のような場合は角膜に深刻な傷ができる可能性があるので、すぐに眼科を受診しましょう。
  • 庭仕事中に木の枝や木片、硬い葉などが目に入った
  • 掃除中に洗剤やカビ取り剤、漂白剤などの化学薬品が目に入った
  • 調理中に熱い油がはねて目に入った
  • 手を消毒するときにアルコールなどの消毒液が目に入った
  • 作業中に鉄などの金属片やコンクリートの破片が目に入った など

2.目の打撲による外傷

目をぶつけたときは、見た目の症状が軽くても油断は禁物です。外からは分かりにくいですが、目の内部でさまざまな損傷が起きている可能性があります。

まぶたの腫れや出血にとどまらず、角膜の傷や濁り、目の中の出血や網膜剥離を伴うと、視力や視野にも影響が出ることもあります。また打ちどころが悪く、視神経管(目から脳へ信号を送る“視神経”が通る通路にあたる部分)を骨折してしまった場合には、急激に失明してしまう可能性もあります。

目を打撲した場合は、痛みや見え方に変化がなくても、すぐに眼科を受診するようにしましょう。

3.コンタクトの間違った装着やお手入れ

コンタクトを装着しているときに目をこすったり、レンズの洗浄が不十分で汚れが付着したままだと、角膜が傷ついたり菌が増殖して目の病気を引き起こすことがあります。また、決められた装着時間や期間を守らず使用していると、角膜へ酸素や栄養の供給が上手く行われなくなり、角膜が傷つきやすくなります。

これらの行為は、一時的な角膜の傷だけでなく、重症の感染症につながる可能性もあります。快適にコンタクトの使用を続けられるよう、正しい使用方法を心がけましょう。

4.目のかわき(ドライアイ)

涙は、目の表面をおおって、外からの刺激や異物から目を保護する働きがあり、目に必要な酸素や栄養の補給も行っています。しかし現代生活では目のかわき(ドライアイ)になりやすい環境が増えています。

パソコンやスマートフォンの長時間の使用、コンタクトの長時間装着、エアコンによる空気の乾燥、睡眠不足や疲れ目などさまざまな原因によって、目の乾燥が進んでしまうと、角膜が傷つきやすくなります

角膜が傷ついたときに出る症状

涙が出る女性
角膜に傷がついたときの症状は、一つだけのこともあれば、いくつもの症状が同時に現れることもあります。たとえ症状が軽く、一つしか感じない場合であっても、そのまま放置はせずに、速やかに眼科を受診するようにしましょう。

1.痛み

角膜にはたくさんの知覚神経が通っていて、体の中でも痛みに対して非常に敏感な組織の一つだと言われています。そのため、傷がつくとかなり強い痛みを感じることがあります。

2.目のゴロゴロ感

目の中に何かが入っているようにゴロゴロすると感じる(異物感)ことがあります。実際に目に入った異物が原因で角膜に傷がついた場合は、異物を取り除いた後もしばらくゴロゴロ感が続くことがあります。

3.涙が増える

角膜に傷がつくと、痛みとともに涙が自然と出てきます。これは、目に入った異物を洗い流そうとする防御反応と同じような仕組みです。そのため、実際の異物がなくても、傷があるだけで涙が止まらなくなることがあります。

4.目が充血する

角膜に傷がつき目に炎症が起きると、眼球の結膜(白目)やまぶたの裏が赤く充血することがあります。

5.まぶしさを感じる

角膜に傷があると、普段より光がまぶしく感じられ、目を開けているのがつらくなることがあります。

6.視力の低下

角膜の傷の位置や大きさによっては、ものがぼやけて見えたり、視力が落ちたりすることがあります。

7.まぶたの腫れ

目の周囲やまぶたが腫れることがあります。

8.目やにの増加

目やにが普段より多く出ることがあります。特に感染がある場合は、目やにの量が増えたり、質が変化したりすることがあるため、早めの受診が必要です。

9.目が開けにくい

痛みや涙が多く出ることで、自然と目を閉じてしまうことがあります。また、光がまぶしく感じられるため、目を開けたままでいることが難しくなることがあります。これは目を保護しようとする体の自然な反応によるものです。

角膜の傷が原因となる病気

目の表面にある角膜は、通常は細菌やウイルス、カビ(真菌)、アメーバなどの微生物が入り込めないような構造になっています。しかし、何らかの原因で角膜の表面に傷がついてしまうと、外からの病原体が付着し繁殖して、感染症を起こすことがあります。また、体の中にいるウイルスが角膜で増殖して病気を引き起こすこともあります。

このような病気を角膜感染症と呼びます。共通する主な症状としては、目の痛み・異物感・充血・視力の低下・目やに・涙目・まぶしさなどが挙げられます。また、まぶたが腫れあがったり、目が開けづらくなることもあります。

角膜感染症は、目の症状だけでは原因を特定することが難しいです。原因となる病原体によって治療法が異なるため、眼科で専門的な検査と適切な治療を受ける必要があります。
ここでは、代表的な角膜感染症をご紹介します。

1.細菌性角膜炎(細菌性角膜潰瘍)

目に傷がついたり、ゴミやホコリ、砂などが入ったりすることで、角膜に細菌が入り込んで起こる病気です。原因となる代表的な細菌としては、ブドウ球菌・肺炎球菌・緑膿菌などがあります。特に、日本ではコンタクトが細菌性角膜炎の最も多い原因となっています。

発症すると、角膜の一部が白く濁ってきます。目の強い痛みが出て、急に視力が低下したり、黄色や白色の濃い目やにが出るといった症状が現れることが多いです。細菌による感染症が重症化すると、角膜に穴が開いてしまうことがあります。これは大変危険な状態で、失明の可能性もあるため、早期発見・早期治療が非常に重要です。

2.ヘルペス性角膜炎(角膜ヘルペス)

多くの場合、体の中にひそんでいた単純ヘルペスウイルスが原因で起こります。

普段は、以前に感染したウイルスが神経の中で眠っている状態で残っています。ケガ、紫外線、風邪、疲労などのストレスやステロイド薬の使用などをきっかけに、ウイルスが角膜に入り込んで発症することがあります。発症後の主な自覚症状には、異物感・目の痛み・涙目のほか、まぶしく感じるなどが挙げられます。

注意点としては、角膜ヘルペスは一度治っても、再発を繰り返すことが多い病気だということです。再発するたびに角膜が濁り、視力が低下していってしまう可能性があります。重症の場合は、角膜移植が必要になることもあります。

3.真菌性角膜炎

病原性のあるカビ(真菌)による角膜感染症のことです。特に、目に持病があったり、ステロイドの目薬を使用していて抵抗力が落ちていたりする人に発症しやすい病気ですが、土やホコリが目に入ったり、植物が目に触れたり、コンタクトの使用でも感染することがあるので注意が必要です。

症状としては、目に違和感や軽い痛みがあったり、涙が出たりして、角膜が白く濁ってきます。細菌による感染症と似た症状が出ますが、症状の進行は比較的ゆっくりです。早めに治療を始めないと、目の表面に穴が開いてしまうことがあります。重症の場合は角膜移植が必要になることもあります。

4.アカントアメーバ角膜炎

アカントアメーバと言う微生物が原因で起こる角膜感染症のことです。アカントアメーバは土や水道水、洗面所、プール、室内のホコリなど、私たちの生活環境の至る所に存在しています。

この病気は特にコンタクトを使用している人に多くみられます。感染は目の中心部から始まり、ゆっくりと周りに広がっていきます。目の痛みがより強く感じられることが特徴的とされていますが、この段階では他の目の感染症と症状が似ているため、正確な診断には専門医による詳しい検査が必要です。

角膜が傷ついたかも? 応急処置と対処法

目を洗う女性
角膜の軽い傷なら自然に治ることもあります。しかし、症状が治まらないときや異物感が取れないときは、自己判断せずに必ず眼科を受診してください。眼科を受診するまでの間に自分でできる応急処置をまとめました。

目に入った異物を水で洗い流す

小さなゴミが目に入ったときは、まずきれいな流水で優しく洗い流してください。このとき、無理に取り除こうとして目をこすると、かえって角膜を傷つけてしまう可能性があるため危険です。目に入ったものが完全に取れない場合や、取り除いても違和感が残るときには、眼科での診察を受けてください。

洗剤などの化学薬品が目に入った場合は、すぐに対処が必要です。目を開けたまま、きれいな流水で10分以上しっかりと洗い流してください。その後、必ず眼科を受診してください。

目をケガしたときは冷やしてすぐに眼科へ!

目を打撲したり傷つけたりした場合は、清潔なタオルを冷やして、まぶたの上から軽くあててください。その後、すぐに眼科を受診しましょう。打撲の直後は異常を感じなくても、あとから視力や視野に影響が出ることがあるため、必ず眼科で診察を受けてください。

コンタクトの使用中止

コンタクトが原因で目に傷がついてしまった場合は、すぐにレンズを外して使用を中止してください。治るまでは必ずメガネを使用するようにしましょう。

傷が完全に治りきらないうちにレンズを装着すると、傷の治りが遅くなったり、感染症を起こしたり、角膜に濁りが出て視力が低下するなどの障害が残ったりする可能性があります。早めの眼科受診で適切な治療を受けることが大切です。

角膜の傷は予防できる?

目薬をさす女性
思いがけず異物が目に入ったり、目をぶつけたりすることは避けられない場合もあります。しかし、日常生活の中で傷ができないように気をつけることもできます。
ここでは、目の傷の予防方法をご紹介します。

目のかわき(ドライアイ)を防ぐ

目のかわき(ドライアイ)は適切なケアで改善や予防をすることができます。
以下の方法を日常生活に取り入れてみてください。

・まばたきを意識する
まばたきをすることで、自分の涙が自然に分泌され、目の潤いを保つことができます。

・快適な環境を整える
加湿器を使って室内を適度な湿度に保ちます。エアコンの風が直接目に当たらないよう注意しましょう。

・目を休める習慣をつける
パソコン作業やスマートフォンの使用、読書など、目を使う作業をするときは、定期的に休憩を取りましょう。

・まぶたを温める
まぶたを温めることで、涙の蒸発を防ぐ油分の分泌がうながされます。

・人工涙液の活用
目に潤いを与えるため、以下の成分を含む人工涙液タイプの目薬や角膜保護の効果のある成分を含む目薬を使用する方法もあります。市販の目薬を購入する際は、参考にしてみてください。
  • 塩化ナトリウム
  • 塩化カリウム
  • コンドロイチン硫酸エステルナトリウム
  • ヒアルロン酸ナトリウム
目薬をさしすぎると、かえって角膜の傷が増えてしまうことがあります。決められた用法・用量を守って使用してください。

メガネやゴーグルで目を守る

植木の剪定(せんてい)をしたり化学物質入りの洗剤で掃除をしたりするときは、目を保護するメガネやゴーグルをかけて異物が目に入らないようにしましょう。目の脇からの異物混入を防ぐ作りの、花粉対策用のメガネを使用するのも良いでしょう。

また、スポーツや工事現場など、目を傷つける危険がある場所では、必ず専用の保護具を使用してください。

コンタクトを正しく使用する

コンタクトの不適切な使用は角膜を傷つけたり、重症の角膜感染症を引き起こしたりする危険性があります。目の健康を守るため、コンタクトは正しく使用することが大切です。

まず、コンタクトの取り扱いは、必ず石鹸でよく手を洗ってから行うようにしましょう。装着時間を守って、寝るときはコンタクトを外すなど、基本の使用方法を守ることが重要です。また、決められた交換時期を守るようにしてください。

1DAYタイプ以外の、ケアが必要なレンズを使用する場合、レンズの洗浄や保存は決められた方法で行い、レンズケースは清潔に保って定期的に交換しましょう。プールや温泉でレンズを着けたままにしたりすることは避けましょう。

目に傷がついた?と思ったら眼科を受診しましょう

眼科を受診する女性
角膜の傷が治るまでの経過は、傷の原因や程度によって大きく異なります。軽い傷は自然に治ることもありますが、特に目をぶつけたり物が当たったりした外傷の場合は注意が必要です。症状が軽く見えても、時間がたってから視力や視野に影響が出ることがあります。

また、角膜に傷があると細菌やカビなどの微生物が入り込みやすく、感染症を引き起こす危険があります。角膜感染症になると、痛みや充血、視力の低下などの症状が現れ、適切な治療が遅れると重症化する可能性があります。目の状態が気になるときには、早めに眼科を受診してください。
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