瞳の休憩室「Rest eye」

推理作家の有栖川有栖が、独自の視点でミステリーや日々の感性をつづります。

第八回 ウサギの目は、なぜ赤い?

あけましておめでとうございます。

新しい年が皆様にとって、幸せな一年になりますように。

今年は卯年。干支の中でも可愛さでトップを争うウサギの年だから、年末に年賀状のデザインをカタログから選ぶ際、「これもいいな。あれもいいな」と目移りして困った。

年賀状に描かれると、どの動物もおめでたく見えるものだが、ウサギは白い身体と真っ赤な目が紅白のコントラストを為すから、とりわけ縁起がよく感じられる。

ところで、ウサギの目が赤い理由をご存じだろうか? すべてのウサギが赤い目をしているわけではなく、あれは白いウサギの一部に限ったことだ。

白い体毛と赤い目には関係があり、メラニン色素を欠いたアルビノ(白子)だけが赤い目を持つ。つまり、色素がないため虹彩等の目の各組織にも色がつかずに透明なので、血管がすけて見えるのだ。

正月早々、物知り博士のようなことを書いた。ウサギ年の初めではあるが、「動物学者でも獣医でもないくせに、いきなり何やねん。ウサギの目がどうして赤いかなんて、こっちは訊いてないぞ」と思われたかもしれない。

ここで今回の真のテーマを明かす。「いきなり何やねん」だ。

わが家の書棚には、私が小学生時代に読んだ本も少しだけ並んでいる。シャーロック・ホームズや少年探偵団の物語と一緒に『野球ルール入門』や『ニャロメの万博びっくり案内』なども。背表紙を見ているうちに懐かしくなって、気まぐれに手に取ることがある。

先日、『なぜだろう なぜかしら 4年上』『理科なぜなぜ教室 知っていますか (8)宇宙旅行・SFのなぞ』の二冊をパラパラと見ていたら、笑いそうになった。と言っても、中身が陳腐でおかしかったわけではない。それどころか、今読んでもためになるぐらいだ。前者からいくつか引用してみる。
〈空は、どうして、青いのでしょう〉
〈ヒマワリは、どうして、太陽の方をむくのでしょう〉
〈火の玉とは、どんなものですか〉

大人でも、ごまかしなく正確に解説できるとはかぎらない。
〈草や木は、どうして歩かないのだろう〉って、答えられますか?  〈海草は、どうして、海にはえているのでしょう〉なんて、とても答えにくい。……質問の仕方がよくないせいもあるが。

そう、質問がおかしくて笑ったのだ。世の中には本当に子供たちから寄せられた疑問に答えた本もあるが、著者が質問者と回答者の一人二役を演じている本も多い。いや、そちらが大半だろう。それを意識しながら読むと、白々しさが滑稽で面白い。
〈魚の年は、どうしてわかりますか〉
〈ムギふみは、なぜするのでしょう〉

言われてみれば気になるな、という線を狙っているのだろうが、「どうしてかな?」と考える前に「いきなり何やねん」と突っ込みたくなる。

後者のなぜなぜ本の項目もご紹介しよう。
〈月には、どうして空気がないのですか?〉
〈ロボットとは、どんなものですか?〉

このあたりは素朴な質問だが、SFマニア養成教室か、というような項目もある。
〈"フッ素 人"とか"ケイ素 人"というのは、どんなものですか?〉――って、 〈宇宙人は、ほんとうにいるでしょうか?〉の少し後にこの問いかけはないだろう。

タイムマシンとは何かを尋ねる子供が 〈数学的な四次元世界とは、どんなものですか?〉と問うのも不自然。 〈そんな言葉をいつ覚えましたか?〉と訊き返したい。

だが待てよ。この勝手に訊いて勝手に答えるというのは、何かに似ている。ああ、あれだ。――推理小説。

推理作家・有栖川有栖のプロフィール