瞳の休憩室「Rest eye」

推理作家の有栖川有栖が、独自の視点でミステリーや日々の感性をつづります。

第二回 間違い探し

上下あるいは左右に並んだ同じような二枚の絵。
「間違いを探してください。何箇所あるでしょう?(あるいは七つの間違いを探してください等)」

よくあるクイズだ。小さな子供でも楽しめる簡単なものから、目を皿のようにして探しても最後の一つがどうしても判らないような難問まで、色々ある。こういう間違い探しには、「こうやれば一目瞭然」という方法があるそうだ。

裸眼立体視というのをご存じだろうか?

映画『アバター』が大ヒットし、3Dテレビが発売されるなど、立体映像が注目を集めているが、これは特殊な眼鏡や道具を使うことなく、平面上の絵や写真を立体的に見る方法だ。やり方は二つある。

寄り目の状態で二枚の絵を見つめ、真ん中に立体的な絵が浮かんでくるようにする交差法。もう一つは、努めて視線を平行にし、左目で左の絵、右目で右の絵を見つめて立体視する平行法。

立体視できるように描かれたものをステレオグラムと言う。ぱっと見ただけでは無意味な模様のようだが、立体視することで意味のある絵が浮かんでくるものもあり、それを楽しむための本も出ている(一九九○年代には大いに流行して書店を賑わせた)。

その裸眼立体視のテクニックを使って間違い探しの二枚のイラストを重ね合わせるように見れば、「あ、ここがズレている」とたちまち判るのだそうだ。

ただし、裸眼立体視は誰にでもできるものではない。私は、練習してもできないのだ。眼鏡店の友人によると、乱視が入っているせいらしい。間違い探しに不利な男である。

間違い探しといえば――

一月に綾辻行人さんが、わが家に泊まり込みで遊びにきた時のこと。妻をまじえて三人で雑談をしていたら、彼がこんなふうに切り出した。
「あのね、この前、ちらかった書類を整理していて、推理作家協会の会報を――」

たったこれだけで、私たち夫婦は何の話が始まるのか見当がついた。
「で、それをレターボックスに入れようとしたんですよ」

ほら、やっぱりそうだ。夫婦でつい笑ってしまったので、綾辻さんは怪訝な顔になる。私は先回りして言った。
「ボックスに入れへんかったんやろ?」
「そう!」と彼も笑いだす。

どういうことかというと――日本推理作家協会の会報は、私たちが入会して以来ずっとサイズがB5版だった。ところが、二○一○年一月号から、何の予告もなくひと回り大きいA4版になったのだ。文字を大きくし、読みやすくするためだろう。

紙を相手に仕事をしているくせに、この変化がなかなか判らなかった。私も彼とご同様で、いつものファイルに閉じようとして「入れへんやん!」と驚いたわけだ。二つを並べればすぐに判ることでも、別個に見るとまったく違いに気づかない。人間の目というのは騙されやすいものだ。……いや、騙されているのは目ではなく、脳か。

また、別のある時。夕食を終えてしばらくして、私はダイニングから二階に上がり、あることをして戻った。そして、寛いでいた妻に自分を見るよう促す。
「間違い探し。何か気がつけへん? ちょっと変わったはずやけど」

妻は答えられない。「ちょっと」のひと言に騙されたのかもしれない。私が早々とパジャマに着替えてきたことに気がつかなかったのだ。

まったく目は……いや、脳は騙されやすい。

推理作家・有栖川有栖のプロフィール